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近代とは何か。近代化とは何か。
ジョン・グレイは、近代イデオロギーの始祖をサン・シモン、オーギュスト・コントの実証主義に見出す。

公開日時:2006年02月19日 01時36分
更新日時:2008年06月23日 00時51分

平成十八年(二〇〇六年)二月十九日(日)
(第一千五百九十回)

◯ジョン・グレイ(オックスフォード大学政治学教授、現在ロンドン・スクー
 ル・オブ・エコノミクス LSE ヨーロッパ思想史教授、一九四八年生まれ)
 は、「わらの犬」(二〇〇二年)のあと、

◯「アルカイーダと西欧」
 (二〇〇三年、邦訳は二〇〇四年、阪急コミュニケーションズ、金利光訳)
 を出版した。

◯ジョン・グレイは、
 「近代化」をめざしたプロジェクトを三つ、批判的に検討する。即ち、

 (1)マルクス共産主義
 (2)ファシズム
 (3)アル・カイーダ=イスラム過激派

◯この三者についてのジョン・グレイの論評はここでは省略する。

◯グレイは、近代化のイデオロギーの主流として、
 「実証主義」を提示する。

◯実証主義の創設者は、サン・シモン(一七六〇~一八二五年)である。

◯サン・シモンは、マルクスによって、三人の「空想的社会主義者」の中の
 一人に挙げられる。

◯残りの二人は、オーウェン、フーリエである。

◯実証主義を宗教として完成させたのは、
 オーギュスト・コント(一七九八~一八五七年)であると。

◯しかし、日本では、コントは、宗教家としてはなくて、多分「社会学」の
 始祖として認識されて居るのではなかろうか。

◯この実証主義によれば、人類社会は

 (1)神学的世界観
 (2)形而上学
 (3)実証的つまり科学的段階へと、

◯進んで行くとする。

◯コントは、エリート・テクノクラートによる統治を提唱した。

◯そしてそれは、二十世紀の世俗的宗教的信仰の原型と成った、と。

◯サン・シモンとコントは、いずれも
 ジョセフ・ド・メーストルに魅力を感じて居たと。

◯実証主義は社会科学に強烈な影響を与えたと。

◯一九〇七年に設立された「ウィーン学団」は、
 実証主義にもとずく社会科学の世界をつくり、

◯そしてここでは、物理学者エルンスト・マッハ(一八三八~一九一六年)
 が、大きな役割を果した。

◯このウィーン学団から、ウィーン経済学派が生まれた。

◯この経済学が、現在、米国で全盛と成り、

◯そしてそれはこの二十年来、
 日本に持ち込まれて猛威を振って居るわけである。

◯ジョン・グレイはこの実証主義学派を、前記の著作で批判する。

◯「二十世紀の終わりの数十年、アメリカの社会科学は、ウィーン学団を通じ
 て持ち込まれた『数学は科学分野全体の知識のモデルである』というコント
 の思想に深く影響されていた。.....」(前出、七十九頁)

◯オーストリア生まれのユダヤ人ウィトゲンシュタインの言語学も、この
 「ウィーン学団」実証主義の流れの一部であることは言うまでもない。

◯米国に占領されて以降の六十年、日本の「学界」は、

◯米国から持ち込まれた、この「実証主義」一色に塗りつぶされて居る。

◯日本人はサン・シモン、コントは、殆んど読まない。

◯二人の著作の翻訳もきわめて少ないか、または無にひとしい。

◯本書については、更に検証を続ける。

 (了)

 




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